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神戸地方裁判所 平成7年(行ウ)29号 判決 1998年9月30日

神戸市西区大津和二丁目四番五八号

原告

株式会社喜久屋

右代表者代表取締役

長曽我部幸雄

右訴訟代理人弁護士

山本恵一

兵庫県明石市田町一丁目一二番一号

被告

明石税務署長 尾崎秀俊

右指定代理人

高橋伸幸

西浦康文

辰田肇

荒尾彰典

森和雄

主文

一  原告の平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの課税期間の消費税について、被告が平成五年七月五日付けでした更正の取消しを求める原告の請求のうち、課税標準額三一億九五六〇万一〇〇〇円、納付すべき消費税額二四万二二〇〇円を超えない部分の取消しを求める訴えを却下する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が、平成五年七月五日付けで原告の平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度以後の法人税についてした青色申告の承認の取消処分を取り消す。

二  被告が、平成五年七月五日付けで原告の平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度の法人税についてした更正並びに重加算税及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。

三  被告が、原告の平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの課税期間の消費税について、平成五年七月五日付けでした更正並びに平成七年九月二九日付けでした無申告加算税及び重加算税の賦課決定を取り消す。

四  被告が、平成五年七月五日付けで原告の平成二年七月一〇日から平成五年一月一一日までの源泉徴収に係る所得税についてした納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定を取り消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  原告(代表取締役は長曽我部幸雄(以下「長曽我部」という。))、は、肩書地に本店を有し、菓子製造販売及び不動産活用に関する総合コンサルタント業務等を業とする資本金四〇〇〇万円の株式会社で、法人税法二条一〇号に規定される同族会社であり、青色申告書による申告の承認を受けていた。

2(一)  長曽我部、吉山明雄、株式会社嶋源(以下「嶋源」という。)、大証産業株式会社(以下「大証産業」という。)、忠建実業株式会社(以下「忠建実業」という。)、太陽建設株式会社(以下「太陽建設」という。)の六名(以下、単に「六名」ともいう。)は、平成二年五月三一日、エーコー産業株式会社(以下「エーコー産業」という。)との間で、別紙物件目録一ないし三記載の各土地(以下「本件各土地」という。)について、本件各土地の一切の解決金及び本件各土地の周辺の六名に関する紛争の解決金(以下「本件解決金」という。)を七八億〇三三一万円とし、エーコー産業は、本件解決金として右金額を六名に支払い、六名はこれを受領すること等を内容とする契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

(二)  エーコー産業は、平成二年五月三一日、六名に対し本件解決金七八億〇三三一万円を支払い、同日、そのうち二二億二五〇〇万円が、長曽我部名義の大阪銀行天神橋筋支店の普通預金口座に入金された。

3  長曽我部名義の右口座に入金された二二億二五〇〇万円のうち一〇億円は、平成二年六月一三日、長曽我部名義の右口座から日経産業株式会社(以下「日経産業」という。)名義の富士銀行四ツ橋支店の普通預金口座に、「チョウソカベ ユキオ」の名義で振込入金された。

4  原告は、長曽我部名義の口座に入金された本件契約の解決金に係る入金について、平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税に係る確定申告に一切計上せず、右入金のうち二〇億二五〇〇万円を平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度(以下「平成四年三月期」という。)の売上に計上し、また、右3の一〇億円を含む一九億五五〇〇万円を仕入れ高として計上して確定申告した。

5  原告に対する課税の経緯等

(一) 被告は原告に対し、本件事業年度以後の法人税について、青色申告の承認を取り消した(以下「青色申告承認取消処分」という。)。

(二) 原告は被告に対し、別表一記載のとおり、平成三年六月二九日付けで本件事業年度の法人税の確定申告を行い、被告は原告に対し、同表記載の経緯により、平成五年七月五日付けで原告の右事業年度の法人税について、更正並びに重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定をした(以下、それぞれ「法人税の更正」、「法人税の重加算税賦課決定」及び「法人税の過少申告加算税賦課決定」という。)。

(三) 原告は被告に対し、別表二記載のとおり、平成四年三月一九日付けで平成二年四月一日から平成三年三月三一日の課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税の確定申告を行い、被告は原告に対し、同表記載の経緯により、本件課税期間の消費税について、平成五年七月五日付けで更正並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分を行ったが、平成七年九月二九日付けで右各賦課決定処分を取消し、改めて無申告加算税及び重加算税の各賦課決定をした(以下、それぞれ「消費税の更正」、「消費税の無申告加算税」及び「消費税の重加算税賦課決定」という。)。

(四) 被告は原告に対し、別表三記載の経緯により、平成五年七月五日付けで原告の平成二年七月一〇日から平成五年一月一一日までの源泉徴収に係る所得税について、納税告知処分及び不納付加算税賦課決定をした(以下、それぞれ「所得税の納税告知処分」、「所得税の加算税賦課決定」という。)。

(五) 原告は右各処分を不服として、平成五年八月三一日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年一一月二六日付けで申立てを棄却した。

さらに、原告は原処分について、平成五年一二月二二日に国税不服審判所長に対し、審査請求をしたところ、国税不服審判所長は平成七年四月一四日付けで請求を棄却する裁決をした。

二  当事者の主張

1  被告の本案前の主張

原告は、本件課税期間の消費税について、課税標準額が三一億九五六〇万一〇〇〇円、納付すべき消費税額が二四万二二〇〇円とする確定申告を行っており、消費税の更正のうち、右課税標準額を超えない部分は、その範囲において納税義務が確定し、原告はその金額を自認したというべきであるから、取消しを求める訴えの利益はない。

2  被告の本案の主張

(一) 青色申告承認取消処分の適法性

(1) 原告は、平成二年五月二二日に本件解決金のうち二二億二五〇〇万円を収受したが、右金額のうち二〇億二五〇〇万円を、本件事業年度の帳簿書類における収益にはもとより、預り金等の仮勘定科目にも計上せず、平成四年三月期の売上に計上した。

(2) 当該事業年度の収益に直接対応する売上原価等の額は、その事業年度の損金の額に計上すべきであるところ(法人税法二二条三項一号)、原告は、本件契約に係る原価を本件事業年度の帳簿書類に計上せず、平成四年三月期の帳簿書類に計上した。

(3) また、原告は、右売上原価として計上した一九億五五〇〇万円のうち一〇億円を、実体のない法人である日経産業に対して支払った売上原価として帳簿書類に計上した。

(4) 被告は原告に対し、平成五年七月五日、右各事実が法人税法一二七条一項三号に該当することを附記した書面により青色申告承認取消処分を通知した。

(5) よって、原告の本件事業年度以後の帳簿書類には、その記載事項全体について、その真実性を疑うに足りる相当の理由があるから、被告が、法人税法一二七条一項三号に基づき本件事業年度以後の法人税についてした青色申告承認取消処分は適法である。

(二) 法人税の更正の適法性

(1) 申告所得金額 〇円

(2) 原告の本件事業年度における所得金額

<1> 収益の計上漏れ金額 二〇億二五〇〇万円

原告は、平成二年五月三一日、本件解決金のうち二二億二五〇〇万円を収受し、二〇億二五〇〇万円を平成四年三月期の売上として計上したが、本件解決金はエーコー産業が本件各土地の所有権を取得することに伴う解決金で、役務の提供に対する対価であると解され、本件契約に係る役務の提供は、少なくとも本件事業年度内には完了していたのであるから、右収益は、その役務の提供を完了した日の存する本件事業年度の売上に計上すべきである。

<2> 原価の認容額 九億五五〇〇万円

原告は、平成四年三月期の売上に計上した二〇億二五〇〇万円の原価として一九億五五〇〇万円を同事業年度に計上したが、当該事業年度の収益に直接対応する売上原価の額はその事業年度の損金の額に計上すべきであるから、右原価の損金算入時期は本件事業年度である。

また、右一九億五五〇〇万円のうち、一〇億円については実体のない法人である日経産業名義に対する支払として売上原価が架空計上されたものであるから、本件事業年度の損金の額に算入し得るのは、一九億五五〇〇万円から一〇億円を除いた金額である。

<3> 繰越欠損金額の当期控除額 二〇八二万二〇二四円

原告は、昭和六二年四月一日から昭和六三年三月三一日までの事業年度において二八二万三九二四円の、平成元年四月一日から平成二年三月三一日までの事業年度において一九七七万二二一九円の各繰越欠損金額があり、右各事業年度に青色申告書を提出した。また、原告は本件事業年度の法人税確定申告書において、繰越欠損金額のうち一七七万四一一九円を損金の額に算入した。

したがって、二八二万三九二四円に一九七七万二二一九円を加えた金額から一七七万四一一九円を控除した二〇八二万二〇二四円が繰越欠損金額の当期控除額である。

<4> 本件事業年度における所得金額 一〇億四九一七万七九七六円

原告の申告所得金額に、収益の計上漏れ金額を加算し、原価の認容額及び繰越欠損金額を減算した金額である。

(3) 原告の本件事業年度における納付すべき法人税額

<1> 所得金額に対する法人税額 三億九二六八万一三七五円

国税通則法一一八条一項、法人税法(昭和六三年法律第一〇九号による改正によるもの)六六条一項及び二項を適用すると、本件事業年度における所得金額に対する法人税額は右金額である。

<2> 課税留保金額に対する法人税額 三八〇三万七二〇〇円

本件事業年度の所得金額のうち、留保された金額一〇億七一七三万〇一七四円(申告に係る金額一七三万〇一七四円に、収益の計上漏れ金額二〇億二五〇〇万円から原価の認容額九億五五〇〇万円を減算した一〇億七〇〇〇万円を加算した金額)を基礎とした課税留保金額二億二二六八万六〇〇〇円に対する法人税額は右金額である(法人税法六七条一項)。

<3> 所得税の控除額 四万三九四五円

原告の本件事業年度の法人税確定申告書に記載されている所得税の還付金額である。

<4> 本件事業年度において納付すべき法人税額 四億三〇六七万四六〇〇円

所得金額に対する法人税額に、課税留保金額に対する法人税額を加算し、所得税の控除額を控除し、国税通則法一一九条一項を適用した金額である。

(三) 法人税の過少申告加算税及び重加算税賦課決定の適法性

(1) 法人税の更正がされたことにより、原告の本件事業年度の法人税に係る当初の申告税額は結果的に過少となる。

(2) また、原告の本件事業年度に計上すべき原価について、実体のない法人である日経産業に対する支払として架空の原価一〇億円を計上し、法人税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を仮装したところに基づいて納税申告書が提出された。

(3) よって、右架空原価一〇億円を計算の基礎として算出された税額に一〇〇分の三五の割合を乗じて計算した金額の重加算税(国税通則法六八条一項)及び右重加算税の計算の基礎となった税額を除いた税額に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した過少申告加算税(同法六五条一項)の各賦課決定は、いずれも適法である。

(四) 消費税の更正の適法性

(1) 課税標準額に対する消費税額

<1> 当初申告に係る課税標準額 三一億九五六〇万一九八五円

<2> 課税売上の計上漏れ 一九億六六〇一万九四一七円

原告が平成三年四月一日から平成四年三月三一日の課税期間に課税売上として計上した本件解決金のうちの二〇億二五〇〇万円は、役務の対価として消費税の課税対象となり、この額から消費税分を控除した右金額が、本件課税期間の課税売上に計上漏れとなっている。

<3> 本件課税期間の課税標準額に対する消費税額 一億五四八四万八六三〇円

当初申告に係る課税標準額に右課税売上の計上漏れ金額を加算し、国税通則法一一八条一項を適用した五一億六一六二万一〇〇〇円が本件課税期間の課税標準額であり、これに税率一〇〇分の三を乗じた金額である(平成六年改正前の消費税法二九条)。

(2) 税額控除額

<1> 仕入れに係る消費税額の控除額 一億二三四四万一三一一円

原告は本件解決金の収益に対する原価として一九億五五〇〇万円を計上したが、そのうち、日経産業に対して支払ったとして計上した一〇億円は、実体のない法人を利用して原価を架空に計上したものであるから、これを除いた九億五五〇〇万円が本件課税期間の課税仕入額であり(消費税法二条一項一二号)、右課税仕入額に係る消費税額の控除額は二七八一万五五三三円である。

これに確定申告書「控除対象仕入税額」欄に記載された九五六二万五七七八円を加算した一億二三四四万一三一一円が、本件課税期間の仕入れに係る消費税額の控除額である(消費税法三〇条一項)。

<2> <1>の金額に、対価の返還等に係る消費税額の控除額である三四円を加算した一億二三四四万一三四五円が税額控除額である。

(3) 納付すべき税額 三一四〇万七二〇〇円

課税標準額に対する消費税額から税額控除額を控除し、国税通則法一一九条一項を適用した右金額が納付すべき税額である。

(五) 消費税の無申告加算税及び重加算税賦課決定の適法性

(1) 原告は、本件課税期間の消費税確定申告書を、法定申告期限である平成三年五月三一日の後に提出した。消費税の更正により、当初の申告税額は結果的に過少となる。

右申告書の提出は、調査があったことにより更正又は決定があるべきことを予知して提出されたものには該当しない。

(2) 原告は、本件課税期間に計上すべき仕入れに係る消費税について実体のない法人である日経産業に対する支払として計上し、架空の原価一〇億円に係る消費税を課税標準に対する消費税額から控除したが、これは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の仮装に該当する。

(3) よって、消費税の更正に基づき納付すべき消費税額のうち、右架空原価一〇億円にかかる消費税額を基礎として算出された税額に一〇〇分の四〇の割合を乗じて計算した金額の重加算税(国税通則法六八条二項、六六条一項二号)、右重加算税の計算の基礎となった税額を除いた税額に一〇〇分の一五の割合を乗じて計算した無申告加算税及び原告の提出した消費税確定申告書に基づき納付すべき消費税額に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した無申告加算税(同法六六条一項二号、三項)の各賦課決定は、いずれも適法である。

(六) 所得税の納税告知処分及び加算税賦課決定の適法性

長曽我部は、日経産業名義の普通預金口座から一〇億円が出金されたのとほぼ同時期に、株式会社広川リゾート倶楽部の株式八〇〇株、和歌山県有田郡広川町等に所在する一五万平方メートル余りの山林及びアメリカ合衆国ハワイ州所在の不動産等の高額資産を購入しており、右一〇億円がこれらの取得費用に充てられたものと認められる。

そして、長曽我部名義の口座から実体のない法人である日経産業に入金された一〇億円は、実質的には原告に帰属し、これを原告代表者である長曽我部が個人的に流用したものであるから、原告が長曽我部に対して貸し付けたものと評価し、長曽我部に対し、別紙貸付利息計算書のとおり、一〇億円の利息相当額の経済的利益を供与したと解すべきである。

原告は、長曽我部に対して既に支給した役員報酬以外の、平成二年六月分として三〇〇万円、同年七月ないし平成四年一二月分として各月五〇〇万円の経済的利益について、原告が徴収すべき長曽我部の源泉徴収の所得税を法定納期限までに納付しなかったから、所得税の納税告知処分及び加算税賦課決定は適法である(所得税法一八五条一項二号、一八三条一項、二二一条、国税通則法三六条一項二号、六七条一項)。

3  原告の認否及び主張(被告の本案の主張に対して)

(一) 青色申告承認取消処分の適法性についての認否

(1) 2(一)(1)、(2)及び(4)の事実は認める。

(2) 2(一)(3)のうち、日経産業が実体のない法人であることは不知であり、その余の事実は認める。

(3) 2(一)(5)は争う。

(二) 法人税の更正の適法性についての認否

(1) 2(二)(1)の金額は認める。

(2) 2(二)(2)<3>の金額は認めるが、同<1>、<2>及び<4>はいずれも争う。

(3) 2(二)(3)<3>の金額は認めるが、同<1>、<2>及び<4>はいずれも争う。

(三) 法人税の各加算税賦課決定の適法性について

2(三)(1)ないし(3)の主張はいずれも争う。

(四) 消費税の更正の適法性についての認否

(1) 2(四)(1)<1>の金額は認めるが、同<2>及び<3>は争う。

(2) 2(四)(2)<1>は争い、同<2>のうち、対価の返還等にかかる消費税額の控除額が三四円であることは認め、その余は争う。

(3) 2(四)(3)は争う。

(五) 消費税の各加算税賦課決定の適法性についての認否

2(五)(1)及び(2)の主張はいずれも争う。

2(五)(1)について、原告は法定申告期限内に消費税の確定申告を行っている。

(六) 所得税の納税告知処分及び加算税賦課決定の適法性についての認否

2(六)の主張は争う。

(七) 原告の主張

(1) 本件契約は、契約書作成の日の平成二年五月三一日の時点において、本件各土地の所有権の最終的帰属について民事上の争い、すなわち、「新日本実業株式会社(以下「新日本実業」という。)が中西興業株式会社(以下「中西興業」という。)及びエーコー産業に対し所有権移転登記抹消登記手続等を求めて平成元年一二月一五日に大阪地方裁判所に提訴した紛争」及び「嶋源と佐藤宏との間に新日本実業の株式一万株の売買の効力等をめぐる紛争」があり、本件各土地の譲渡収益に対応する和解費用等が未確定である等、所有権の売買が完結したとはいえず、実質的には売買予約にすぎなかった。前者の新日本実業と中西興業及びエーコー産業との間の訴訟事件が解決したのは平成三年三月期以降であり、後者の嶋源と佐藤宏との間の紛争が解決したことを原告が知ったのは平成四年四月であった。

また、本件解決金のうち長曽我部名義の普通預金口座に入金された二二億二五〇〇万円は、入金された当時、分配比率が未確定のまま原告が一時的に受け取った預り金であり、分配比率は平成二年五月から平成四年八月ころまでに嶋源が順次確定し、和解費用等として出金したものである。

さらに、売上計上額二〇億二五〇〇万円についての経費となるべき領収証は嶋源より平成二年秋から平成五年五月中旬ころにかけて順次原告に交付され、原告としては平成三年五月三一日までに経費がいくらになるのか確定し得なかった。ようやく経費を嶋源から聞いたのは平成四年四月一〇日であって経費が明らかになることにより収益が確定した。

したがって、法人税法上の本件契約に係る収益が原告に帰属したのは平成四年三月期と解すべきであり、消費税法上の本件契約に係る課税売上の課税期間は平成三年四月一日から平成四年三月三一日の課税期間である。

(2) 原告は、日経産業の存在及び平成二年六月一三日に長曽我部名義の普通預金口座から日経産業名義の普通預金口座に一〇億円が入金された事実を全く知らなかったが、原告が本件解決金の分配を嶋源に委任していたところ、嶋源が日経産業に右一〇億円を支払ったものであるから、右一〇億円を本件契約に係る原価に計上したことは、架空原価の計上にはあたらない。

(3) 右一〇億円は、嶋源が日経産業名義の右口座に入金した後、嶋田源(以下「嶋田」という。)により出金され、同人及び音野敏明(以下「音野」という。)に渡されたものであり、長曽我部個人が流用したことはなく、原告から長曽我部個人に対する貸付金にはあたらない。

三  争点

1  消費税の更正の取消しを求める訴えのうち、課税標準額三一億九五六〇万一〇〇〇円、納付すべき税額二四万二二〇〇円を超えない部分について、取消しを求める訴えの利益は認められるか。

2  本件解決金のうち、原告が収益ないし課税売上として計上した二〇億二五〇〇万円の帰属時期ないし課税期間はいつか。

3  平成二年六月一三日に、長曽我部名義の普通預金口座から日経産業の普通預金口座に入金された一〇億円を本件契約に係る原価として計上したことは、原価の架空計上にあたるか。

4  右一〇億円が原告に帰属し、これを長曽我部が個人的に流用したもので、同人に対する貸付けと解することができるか。

第三当裁判所の判断

一  争いのない事実及び証拠(甲七の1ないし6、九の2、3、5、6、一五、六一、六七、乙二ないし四、六、八ないし一一、一二の1、2、一三、一五の1ないし4、一八、証人嶋田、原告代表者本人)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1(一)  長曽我部、吉山明雄、嶋源、大証産業、忠建実業、太陽建設の六名はエーコー産業との間で、平成二年五月三一日、本件各土地について、次のとおり、本件契約を締結した。

(1) 本件各土地の一切の解決金及び本件各土地の周辺の六名に関する紛争の解決金(本件解決金)を七八億〇三三一万円とする。

(2) エーコー産業は、本件解決金として七八億〇三三一万円を六名に支払い、六名はこれを受領した。

(3) 本件解決金の支払の趣旨は、次のとおりである。

<1> 別紙物件目録三記載の土地に関する所有権移転請求権の大証産業の持分一二分の一及び忠建実業の持分一二分の一を、エーコー産業に移転する。

<2> エーコー産業は、六名の所有する新日本実業の株式の全部(発行済み株式の五〇パーセントである一万株)を本件解決金の支払と同時に譲り受ける。

<3> エーコー産業は、六名から新日本実業に対する訴権及び同社譲り受けに関する一切の権限を譲り受ける。

<4> エーコー産業は、六名の新日本実業に対する刑事訴訟事件の全ての権利の引継ぎを受け、六名はこれに協力するものとする。

(二)  六名の当事者間における本件解決金の分配方法は、嶋源の代表取締役である嶋田が、本件契約締結の日の約一か月前に決定し、当事者もこれを了承していた。

エーコー産業は六名に対し、平成二年五月三一日、本件解決金七八億〇三三一万円を支払い、そのうち二二億二五〇〇万円は原告の分配金として、同日、長曽我部の使者である嶋源の従業員が、大阪銀行天神橋筋支店に長曽我部名義普通預金口座を開設したうえで入金し、原告がこれを受領した。

右口座の預金通帳は、長曽我部の同意を得て嶋源が同年六月末ころまで保管し、預金の払戻手続等は、長曽我部本人が届出印を押印した書類を嶋田又は嶋源の従業員に交付することによって行っていた。

(三)  平成二年六月四日に、右長曽我部名義の口座に入金された二二億二五〇〇円のうち二億円が出金され、音野に交付された。音野は、右二億円について平成二年分の所得税に係る修正申告をした。

その後、右長曽我部名義の口座から、同月五日に合計三億五〇〇〇万円、同月七日に三億〇〇八七万五〇〇〇円、同月一一日に二億円、同月一三日に一〇億円、同月一九日に一億七四一〇万円がいずれも現金で出金された。右口座には、それ以後の取引はない。

このうち、同月一三日に出金された一〇億円は、同日、日経産業(代表取締役鈴木洋司)を名義人とする富士銀行四ツ橋支店の普通預金口座に、「チョウソカベ ユキオ」の名義で入金された。

(四)  日経産業は、昭和五八年六月三日、本店所在地を大阪市西区西本町二丁目一番一号、資本金を三〇〇万円、代表者を鈴木洋司として設立されたが、所轄税務署長に対して一度も納税申告書を提出したことがなく、平成元年一二月三日、商法四〇六条の三第一項に基づき解散したものとみなされ、平成二年七月一二日、右同所を本店所在地、資本金を一〇〇〇万円、代表者を一宮健二として、同じ商号で新たに設立された株式会社である。

前記日経産業名義の普通預金口座は、平成二年六月八日に一万円の入金により開設されたが、同月一三日の前記入金の後は入金はなく、同月一五日に五億円、同月一八日に四億七〇〇〇万円、同月二九日及び同年七月六日に各五〇〇万円、同月一一日に二〇〇〇万円の合計一〇億円が出金されたのみである。

同月一一日に出金された二〇〇〇万円のうち一〇〇〇万円は、同日、朝銀大阪信用組合の日経産業名義の口座に株式払込保管金として入金され、残りの一〇〇〇万円は、同信用組合の別の会社の株式払込保管金として入金された。同月二七日に、右各一〇〇〇万円は株式払込保管金口から、同一の伝票で振り替えられた。

(五)(1)  別紙物件目録二記載の土地については、本件契約に基づき、平成二年五月三一日受付で、同日売買を原因として、吉山明雄、嶋源、大証産業及び忠建実業の各四分の一の持分をエーコー産業に移転する旨の登記がなされた。

(2) また、同目録三記載の土地については、協商興産株式会社からエーコー産業に対し、同日受付で、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記がなされた。

(3) 同目録一記載の土地については、平成元年九月三〇日及び平成二年四月六日受付で、平成元年九月二九日及び平成二年四月六日の売買を原因として中西建設株式会社(以下「中西建設」という。)の所有権を各持分二分の一ずつエーコー産業に移転する旨の登記がなされている。

なお、同目録一記載の土地を含む本件各土地の周辺の土地に関しては、新日本実業と、中西建設、中西興産及びエーコー産業との間で所有権の帰属等をめぐる紛争があり、新日本実業は、平成元年一〇月九日、同目録一記載の土地の中西建設の持分に対する処分禁止の仮処分の登記を経るとともに、同年一二月一五日、中西建設、中西興産及びエーコー産業を被告として右土地等の所有権移転登記抹消登記手続等を求める訴訟を大阪地方裁判所に提起した(同裁判所平成元年(ワ)第一〇一九八号)。

しかし、右仮処分の登記は平成二年四月九日に同月六日取下を原因として抹消され、右訴訟は同年一一月五日までに訴えの取下げによって終了した。

2(一)(1) 一方、長曽我部、嶋田及び音野らは、和歌山県広川町においてゴルフ場開発を行うため、平成元年ころから株式会社ナカムラの買収及びゴルフ場用地の買収を計画し、長曽我部が主として用地買収を、音野及び嶋田が用地買収等の資金調達を担当していた。

株式会社ナカムラは、同年四月二五日に商号が株式会社広川リゾート倶楽部に変更されて、長曽我部及び音野が代表取締役に、嶋田が取締役に、それぞれ就任し、同年五月一日、同会社の本店が原告の本店所在地に移転された。

(2) 株式会社ナカムラの株主である中村常男は浦英一との間で、平成二年六月二九日、概ね次の内容の契約を締結した。

<1> 中村常男は浦英一に対し、株式会社ナカムラの全株式一六〇〇株を譲渡する。

<2> 浦英一は中村常男に対し、右株式譲渡代金として、一〇億〇九五三万八四九九円を次のとおり支払う。

同年一月一一日 八〇〇〇万円

同年六月二九日限り 九億二九五三万八四九九円

<3> 株式会社スーパー中村は浦英一に対し、同年六月二九日、株式会社スーパー中村の株式会社ナカムラに対する貸付金債権四億一一七一万九四一四円を同額で譲渡する。

浦英一は右契約に基づいて株式会社ナカムラの株式を取得し、長曽我部は浦英一から、同月二九日、株式会社ナカムラの全株式の半数である八〇〇株を取得した。

株式会社ナカムラの全株式の買収代金として、平成二年一月一一日に八〇〇〇万円、同年六月二九日に五億円、七七五八万四〇一四円及び七億五七六〇万一五七四円の合計一四億一五一八万五五八八円が支払われた。

(二) 長曽我部はゴルフ場用地の買収を行うため、浦英一との間で、平成元年四月一三日、概ね次の内容の契約を締結した。

(1) 浦英一は長曽我部に対し、平成二年七月末日までに、長曽我部が指定した用地を長曽我部に引き渡す。

(2) 浦英一は長曽我部に対し、土地取りまとめ価格を坪七八〇〇円として、長曽我部に引き渡す。

(3) 浦英一は長曽我部に対し、用地買収運動費を請求することができる。

(4) 長曽我部は、土地所有者と直接買収取引をして坪七八〇〇円と実際の買収価格との差額を生じた場合には、その差額を浦英一に対して支払う。

(三)(1) 長曽我部は右契約に基づき、日経産業名義の普通預金口座から合計一〇億円が出金されたのとほぼ同時期に、別表四の「土地所在地」欄記載の和歌山県有田郡広川町等に所在する各土地(以下「広川町の土地」という。)を個人で購入した(ただし、広川町の土地のうち、別表四No.<11>ないしNo.<19>、No.<22>は、大屋治子の名義で購入し、後述の税務調査が行われて真の所有者が長曽我部であることが判明した後である平成八年二月八日に、真正な登記名義の回復を原因として右大屋から長曽我部に所有権移転登記された。)。

(2) 広川町の土地の買収費用、開発費用等として、嶋源ないし嶋田は平成元年ころから平成四年ころまでの間に約六億五〇〇〇万円、音野は約二四億円を出資したが、結局、開発許可を得ることができず、広川町におけるゴルフ場開発は頓挫した。

(四)  また、長曽我部は、右と同時期に、アメリカ合衆国ハワイ州マウイ島ラハイナ所在のコンドミニアムを個人で購入し、平成二年一二月一七日、ファーストハワイアン銀行ラハイナ支店を支払銀行として、但馬銀行明石支店から購入代金等七八二二万六五五一円を送金した。

3(一)  大阪国税局課税第二部資料調査第二課に所属していた松井巧及び高瀬和弘らは、平成五年四月二〇日から同年五月二〇日までの間に、五回、原告の本店に臨場し、原告の帳簿調査及び長曽我部に対する質問調査等を行った。その結果、次の事実が明らかになった。

(1) 本件各土地に関する紛争解決のために、平成二年五月三一日付けで締結された本件契約の契約書が、原告本店に存在していた。

(2) 長曽我部は、富士銀行四ツ橋支店の日経産業名義普通預金口座の写しを所持していた。

(3) 日経産業は、平成二年七月一二日、大阪市西区西本町二丁目一番一号を納税地として設立されたが、納税地には実体がなく、事業を行っていたという事実は存在しなかった。

(二)  松井らは長曽我部に対し、日経産業に支払った一〇億円の原価性について再三説明を求めたが、長曽我部は何ら具体的な説明をしなかった。

(三)  その後、松井は長曽我部に対し、右一〇億円の帰属先の特定と納税方法に関する話し合いのため、大阪国税局に来局するように告げ、松井と長曽我部との間で四回にわたり、面接が行われた。

面接の中で、松井は右一〇億円の使途について追及し、長曽我部は松井に対し、一〇億円を個人資産には流用しておらず、広川町の土地等の個人資産の取得資金は借入金である旨の回答をしたが、その事実を裏付ける資料の提出を求められても、「Sさん、Oさんに相談するから。」などと答えて、ついに提出しなかった。

また、長曽我部は松井に対し、仮に右金員が他に流れていたらどうなるか等の質問をしたり、納税資金を誰かからもらってくる等の申し入れを行った。長曽我部は、いったんは、原告について修正申告をするといったものの、結局、修正申告をしなかった。

さらに、長曽我部は恵那税理士とともに面接に訪れ、右税理士が、嶋源、音野及び原告の三者で等分に税金を負担するとの申入れを行ったが、松井はこれを拒絶した。

二  争点に対する判断

1  争点1について

原告が、本件課税期間の消費税について、課税標準額を三一億九五六〇万一〇〇〇円、納付すべき税額を二四万二二〇〇円とする確定申告を行ったことは争いのない事実であるところ、本件の消費税の更正のような増額更正処分は、課税標準又はこれに基づく税額を全体として確認する処分であって、申告による税額等の確定の効力を全面的に失わせて新たに納税義務の範囲を確定する効力を生じさせるものではなく、増差額に関する部分についてのみ右のような効力が生じるものであるから、原告の申告に係る右課税標準額及び税額を超えない部分については、取消しを求める訴えの利益が認められない。

2  争点2について

(一) 前記認定のとおり、本件解決金として、平成二年五月三一日に二二億二五〇〇万円が、原告代表者の意思に基づいて作られた大阪銀行天神橋筋支店に長曽我部名義の口座に入金され、原告が右金員を受領したといえること、右口座の預金通帳を嶋源が一時保管することについても原告代表者の同意があったこと、本件解決金のうち原告の分配金が右金額であることは本件契約の日の約一か月前に六名の当事者間で合意されていたこと等が認められ、これらの事実によると、平成二年五月三一日に右二二億二五〇〇万円は、確定的に原告に帰属したものというべきである。

(二)(1) これに対し、原告は、本件契約の時点において、本件各土地の所有権の最終的帰属について民事上の争い、すなわち、「新日本実業が中西建設、中西興業及びエーコー産業に対し所有権移転登記抹消登記手続等を求めて平成元年一二月一五日に大阪地方裁判所に提訴した紛争」及び「嶋源と佐藤宏との間に新日本実業の株式一万株の売買の効力等をめぐる紛争」があり、所有権の売買が完結したとはいえず、実質的には売買予約にすぎなかった旨の主張をする。

しかし、前記認定のとおり、原告主張の右訴訟事件は、平成二年一一月五日までに訴えの取下げによって終了していることが明らかである。また、原告は、嶋源と佐藤宏との間の株式の売買に関する紛争について、紛争の内容や紛争と本件契約との関連性を明らかに主張しないし、全証拠によっても右紛争の存在によって本件契約の成立が妨げられたとの事情を認めることはできない。

(2) また、原告は、本件契約時において本件解決金の分配比率が未確定であり、嶋源ないし嶋田が長曽我部名義の右口座を開設し、長曽我部の届出印を預かって、原告の関与なく和解費用等として出金をしていたため、本件事業年度中は、本件解決金の分配金の額が未確定であったと主張し、長曽我部は右主張に沿う趣旨の供述をしている。

しかし、原告は二二億二五〇〇万円について預り金等の仮勘定科目にも計上しておらず、原告の会計処理と異なるうえ、右口座の預金の払戻請求書に押印されている届出印は、いずれも平成二年六月ころに長曽我部と取引のあった和歌山銀行和歌浦東支店及び紀陽銀行湯浅支店の普通預金口座に使用された同人の届出印並びに本件解決金の領収書の印と同一のものであり(甲八の3ないし9、一一、一二、乙五、原告代表者本人)、長曽我部が取引銀行の届出印を嶋源に預けていたとするのは不自然であること、長曽我部自身が印鑑を預けていた時期について明確に供述していないこと、「和解」の当事者及び内容等が明確に主張されていないこと、嶋田自身も和解費用等の支払が何を指しているかわからない旨の証言をしていることから、長曽我部の右供述は信用することができず、原告の主張は採用できない。

(3) さらに、原告は平成四年三月期に計上した二〇億二五〇〇万円のうち日経産業分を除いた九億五五〇〇万円についての領収書が嶋源より平成二年秋から平成五年中旬ころにかけて交付されたから、本件事業年度に経費が確定しなかった旨主張するが、これに対応する領収書が存在することは当事者間に争いがなく、右領収書の作成日付はいずれも平成元年三月三一日から平成二年七月二六日までの期間のものである(作成日付の記載のないものについては、長曽我部名義の口座の出金状況からすると右期間内のものであると推認できる。)(弁論の全趣旨)から、右経費については、領収書作成日付の時点ころに損金として確定していたというべきである。

(4) よって、原告の右主張は失当である。

(三) 以上より、原告が平成四年三月期の帳簿書類に計上した二〇億二五〇〇万円について、法人税法上の収益帰属年度は本件事業年度であり、消費税法上の課税売上の課税期間も本件課税期間と認めるのが相当である。

3  争点3について

前記のとおり、日経産業は、所轄税務署長に一度も納税申告書を提出したことがなく、平成元年一二月から平成二年七月ころまで解散された状態にあり、長曽我部名義の普通預金口座から一〇億円の入金があった同年六月一三日当時、事業活動を行っていた形跡がないこと、松井らによる調査の際に、原告は右一〇億円の原価性について再三説燒セを求められ、その後の面接でも追及されたが、何ら具体的な説明をせず、根拠となる資料も提出しなかったことが認められる。

また、原告が右一〇億円を本件契約に係る原価として支払ったのであれば、具体的な支払の趣旨、内容や日経産業と本件契約との関係について、容易に主張、立証をすることができると考えられるにもかかわらず、本件訴訟において、原告は何ら主張、立証をしていない。

そうすると、右一〇億円は本件契約に係る原価とは認められず、実体のない法人である日経産業に対する支払として、原価に架空計上されたというべきである。

この点、原告は、右一〇億円は長曽我部名義の普通預金口座を管理していた嶋源ないし嶋田が出金したものであり、原告は日経産業の実在も支払の事実も知らないとの主張をするが、右一〇億円を含む一九億五五〇〇万円を売上原価として計上した会計処理と矛盾するし、前述のとおり、右口座の出金については全て長曽我部の意思に基づいて行われたと認められるから、右主張は採用できない。

4  争点4について

(一) 日経産業名義の普通預金口座に入金された一〇億円について、原告が原告代表者である長曽我部に対して貸し付けたものといえるかを検討する前提として、右一〇億円を長曽我部が個人的に流用したかを判断する。

長曽我部名義の普通預金口座に入金された金銭のうち、日経産業名義の口座に入金された右一〇億円が原告に帰属し、これを長曽我部が個人的に流用したと認めるには、これを長曽我部が何らかの形で使用したことが積極的に立証されるか、少なくともそれを推認するに足りる事実が立証されることが必要であると解される。

そこで検討すると、前記のとおり、日経産業名義の普通預金口座に入金された一〇億円は、もともと原告に帰属した二〇億二五〇〇万円から振り込みされたものであるうえ、原告は同族会社でありその代表者である長曽我部は原告の財産を自由に管理、処分できる立場にあったこと、長曽我部が日経産業名義の右口座の預金通帳の写しを所持していたこと、日経産業は右入金の当時、解散された状態にあり経済活動を行っていなかったと認められること、長曽我部が右一〇億円の支払の趣旨について税務調査の際に合理的な説明をしていないこと等の事情からすると、日経産業名義の口座に入金された一〇億円は、原告ないし長曽我部が自由にできるものであった可能性が高いと認められる。また、右入金の当時、長曽我部は、嶋田及び音野とともに和歌山県広川町のゴルフ場開発に着手しており、株式会社ナカムラの株式、広川町の土地の買収及びゴルフ場開発、ハワイの物件の購入資金として多額の金銭を必要としていたこと、長曽我部又は大屋治子名義で購入した広川町の土地のうち別表四No.<5>ないしNo.<10>、No.<15>ないしNo.<18>の土地については、日経産業名義の口座に右一〇億円が入金された日から数か月以内に売買契約が行われており(甲二五ないし三八、四八ないし五六)、No.<1>、No.<11>ないしNo.<14>については右入金に近接した日に売買がなされている(うちNo.<13>、No.<14>の登記は入金後である。)(甲二〇、二一、四〇ないし四六)ことが、それぞれ認められる。さらに、原告は、本件訴訟においても右一〇億円の支払の趣旨について合理的な理由となる事実を主張、立証していない。

なお、原告は、株式会社ナカムラの株式取得代金が八〇〇〇万円、広川町の土地の売買代金は、長曽我部名義で購入したものが合計一億四〇五二万八一二〇円、大屋治子名義で購入したものが九〇〇三万七一八〇円であると主張する。しかし、株式会社ナカムラの株式売買代金は合計一四億一五一八万五五八八円であるのに、その株式の半数を原告がわずか八〇〇〇万円で取得することは不自然であり、長曽我部がゴルフ場開発のノウハウを提供する代わりに安価で株式を取得したとの主張は、これまでに一度も開発許可を取得したことがない長曽我部のゴルフ場開発の実績に照らして信用することができないから、右株式の売買代金がわずか八〇〇〇万円であったと認めることはできない。また、広川町の土地買収に関する長曽我部と浦英一との間の前記一2(二)の契約によれば、売買代金は坪七八〇〇円とし、差額を生じた場合はその差額を長曽我部が浦に支払い、かつ、浦が用地買収運動費を別途請求できるものとされているから、代金は合計八億三四四二万二六二八円を下回らないと考えられるうえ、領収日付において既に解散していた和晃テキスタイル株式会社(乙一四)が領収者となっているもの(甲二二)が含まれ、売買代金を立証する証拠としては信用性が低く、広川町の土地の売買代金が原告主張のような低い金額であったとは到底認められない。

さらに、原告は、株式会社ナカムラの株式、広川町の土地の買収、開発代金及びハワイの物件購入の原資について、長曽我部の所得の蓄積による個人資金、嶋源、嶋田及び音野による出資金及び金江喜市、金江善市等からの借入金である旨の主張をするが、出資ないし借入の具体的な日付、条件、金額や、出資金ないし借入金の具体的な使途等は主張、立証がなく、嶋源ないし嶋田が約六億五〇〇〇万円、音野が約二四億円を出資したとの嶋田の証言に照らすと、甲第一一及び一二号証に現れた資金の預入は、売買代金等の原資の一部を反映しているに過ぎないと認められるから、長曽我部が広川町におけるゴルフ場開発等に投入した資金の調達先は、かなりの部分が不明のままであるというべきである。

そして、右の事情を総合すると、右一〇億円は、長曽我部が広川町におけるゴルフ場の用地買収及び開発等の資金を賄うため、長曽我部が実体のない法人である日経産業の口座を利用して入金したうえで、何者かを通じてこれを引き出し、ゴルフ場用地買収及び開発等の資金として個人的に使用したものと推認するのが相当である。

(二) してみると、長曽我部は、実質的には原告に帰属する一〇億円を個人的に流用したものであるから、右金員は原告が長曽我部に対し貸し付けたものと評価するのが相当である。

三  まとめ

1  青色申告承認取消処分について

原告が本件事業年度に計上すべき本件契約に係る売上及び右契約に係る原価(法人税法二二条三項一号)を同事業年度の帳簿書類に計上せず、原価として一〇億円を架空計上して、いずれも平成四年三月期に計上したことが認められ、原告の本件事業年度以後の帳簿書類には、記載事項全体について、その真実性を疑うに足りる相当の理由がある。よって、右処分は適法である。

2  法人税の更正について

本件事業年度の申告所得金額及び繰越欠損金額の当期控除額は争いがなく、収益の計上漏れ金額及び原価の認容額は被告主張のとおりと認められるから、原告の同事業年度の所得金額は一〇億四九一七万七九七六円である。

これに対する法人税額及び課税留保金額に対する法人税額は被告主張のとおりであり、所得税の控除額は争いがない。

よって、納付すべき法人税額は四億三〇六七万四六〇〇円となり、右金額に既に還付の確定した本税額を加算した範囲内でなされた法人税の更正は適法である。

3  法人税の各加算税賦課決定について

法人税の更正がされた結果、当初の申告税額〇円は過少となる。

また、実体のない法人に対する支払として一〇億円を原価として架空計上したことは、存在しない課税要件事実が存在するように見せかけたものであり、法人税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の仮装に該当する。

よって、国税通則法六八条一項、六五条一項に基づいてなされた右各処分は適法である。

4  消費税の更正について

当初申告に係る課税標準額は争いがなく、課税売上の計上漏れ金額は被告主張のとおりであるから、本件課税期間の課税標準額及びこれに対する消費税額は被告主張のとおりである。

仕入れに係る消費税額の控除額は被告主張のとおりであり、対価の返還等に係る消費税額の控除額は争いがないから、税額控除額も被告主張のとおりである。

よって、納付すべき消費税額は三一四〇万七二〇〇円となり、右金額から既に納付の確定した税額を控除した範囲内でなされた消費税の更正は適法である。

5  消費税の各加算税賦課決定について

消費税の更正がされた結果、当初の申告税額三一億九五六〇万一九八五円は過少となる。原告の消費税の確定申告は、原告に対する調査の前である平成四年三月一九日に行われているから、申告に係る調査があったことにより消費税の更正があるべきことを予知してされたものではない。

また、実体のない法人に対する支払として一〇億円を原価として架空計上したことは、消費税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の仮装に該当する。

さらに、本件課税期間の法定申告期限は平成三年五月三一日であるから(消費税法四五条一項)、原告の右申告は期限後の申告である。

よって、国税通則法六六条一項二号、三項、六八条二項に基づいてなされた右各処分は適法である。

6  所得税の納税告知処分及び加算税賦課決定について

長曽我部名義の口座から日経産業に入金された一〇億円について、原告が長曽我部に対して貸し付けたものと評価し、長曽我部に対し、別紙貸付利息計算書のとおり、一〇億円の利息相当額の経済的利益を供与したと解したうえで、平成二年六月分として三〇〇万円、同年七月ないし平成四年一二月分として各月五〇〇万円の経済的利益について、原告が徴収すべき長曽我部の源泉徴収の所得税を法定納期限までに納付しなかったとして右各処分を行ったものであるから、右各処分は適法である。

第四結論

以上のとおり、原告の請求は、原告の平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの課税期間の消費税について、被告が平成五年七月五日付けでした更正の取消しを求める請求のうち、課税標準額三一億九五六〇万一〇〇〇円、納付すべき消費税額二四万二二〇〇円を超えない部分の取消しを求める訴えは不適法であるから却下し、その余の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 將積良子 裁判官 田口直樹 裁判官 武宮英子)

物件目録

一 所在 宝塚市蔵人字樫ヶ峯

地番 壱参八八番の参弐

地目 保安林

地積 壱六五七八九平方メートル

二 所在 宝塚市蔵人字樫ヶ峯

地番 壱参八八番の参九

地目 保安林

地積 弐参壱四〇平方メートル

三 所在 宝塚市蔵人字樫ヶ峯

地番 壱参八八番の四弐

地目 保安林

地積 弐五参四五平方メートル

別表一

課税の経緯(法人税)

<省略>

別表二

課税の経緯(消費税)

<省略>

別表三

課税の経緯(源泉所得税)

<省略>

※ 上記告知処分の内訳

<省略>

別紙

貸付利息計算書

<省略>

別表四

別紙 広川町土地取得内訳

<省略>

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